平成31年3月10日(日)に開催されたセミナーの様子を紹介します

講師 坪見博之 先生(富山大学人文学部 准教授)
   佐藤 德 先生(富山大学人間発達科学部 教授)


講義・実習

「こころは実験できるのか?:実験心理学とは」 (坪見先生)
 「こころとは何でしょう?」「皆さんに、こころはありますか?」「こころを取り出して見せて下さい。」「こころを測るためにはどうしたらいいのでしょうか?」
この質問について、グループで話し合いました。正解があるわけではなく、自分の思ったことを話してもらいます。

 光が網膜の視細胞に吸収されて視神経を伝わると、大脳の視覚野が活動する。では、脳が活動するとなぜ「見える」という非物理的な「こころ=意識」が生じるのか?坪見先生の研究活動は、この疑問から始まったそうです。先生の研究テーマは「こころと脳」の関係。哲学では「心身問題」として諸説様々な議論が交わされていますが、現在でも答えは出ていません。これを心理学の観点でアプローチすると、興味深い世界が見えてくるそうです。


「目の前が見えること」についての心理学実験 (坪見先生)

 上の写真(1~8)の中のどこか1カ所が変化します。その違いを見つけるまでの観察回数(何回目で検出できるか)を測定しようという実験です。8枚の絵で実験をしました。 それぞれの絵について、ある部分が消失したり、位置や色が変わったりと、すぐに気づいたものや最後まで分からなかったものなど様々です。    

実験結果は左図のとおりで、この結果について、グループで話し合いました。変化する面積が大きければ見つけやすいというものでもなさそうです。変化する場所が、写真中央にあるのは分かりやすいという意見もありました。


「私がここにいると思うこと」についての実験心理学 (佐藤先生)

「自己」の3つの側面 一言で自分と言っても色々な側面がある。

1.主体感 : 自分がやっているという感覚。自分が話している。自分が手を動かしている。
2.所属感 : 身体や経験が自分に属すという感覚。これは自分の手だ。痛いのは自分の歯だ。見ているのは自分だ。感じているのは自分だ。
3.物語自己 : 記憶の想起によって作られる自分。自分は高校生だ。自分の夢は医者になって病気の人を救うことだ。自分は子どもの時サッカー選手になりたかった。

それぞれの自己の側面の障害
・統合失調症の幻聴・作為体験 主体感の障害の一例?
・身体失認 所属感の障害の一例?
・離人症 所属感の障害の一例?
・解離性同一性障害 物語自己の障害の一例?

→ 心理学の研究では、それぞれの自己の感覚が成立する仕組みがどうなっているのか、それぞれの症状ではどこに障害があるのかを明らかにしていきます。

【実験】今回扱うのは身体の所属感
・自分の手が自分の手だというのは当たり前?
・たった5分で、手を入れ替えて見せる!?

ゴムの手錯覚
左写真のように、ついたてを立てて、ゴムの手は自分の目の前に、自分の手はついたての向こう側に置いて見えないようにする。
・ゴムの手と自分の手が同時になでられると、ゴムの手が自分の手のように感じる。
・しかし、なでるタイミングをずらすと、この錯覚は起こらない。
・感覚間の時間的一致が重要。
実施の際の注意点

1.ゴムの手と実際の手を同時に(0.2秒以内)同じ場所を撫でる。
2.ゴムの手を実際の手と同じ角度になるように於く。
3.ゴムの手を自分の手だとして自然な位置に置く。
4.同じ指だけでなく、満遍なく色々な指や手の甲を撫でる。
5.一定のテンポではなく、相手が予測できないような不規則なリズムで撫でる。

参加生徒の感想

・ゴムの手が自分の手のような不思議な感覚になりました。
・自分が誰にでもなってしまうような、とても不思議な気持ちになりました。
・ゴムの手が爪楊枝で刺されそうになると、怖くて思いっきりよけてしまいました。
・人の錯覚は凄いなと思いました。



「とことんセミナー」
参加者が多かったので、全体で先生方やスタッフの方への質問タイムです。大学での学習や、学科選択、研究のテーマ選びの決め手など、自分が将来について抱えていた不安を解消できるようなアドバイスもいただきました。


まとめ 閉講式
セミナー終了後も先生方への質問はまだまだあります。時間の許す限り、たくさんの質問や疑問に答えてくださりました。